医療法人社団 正鵠会

四街道メンタルクリニック

介護保険認定審査作戦

 
 同じ事をやるのにも、効率の良いシステムと効率の悪いシステムがある。介護保険の認定審査をみていてふたつのシナリオが頭に浮かんでくる。ストーリーはふたつのシナリオともに、司令部(厚生省)から極めて不完全な地図(一次判定ソフト)しか支給されないにもかかわらず早急に「適切な認定」という目標地点に到達せよと命ぜられたある小隊(認定審査会)の話である。

 Aのシナリオでは、司令部が「支給する地図は極めて不完全なものであるから、現場に赴く隊員には優秀なものを選び、現場の地形等を勘案しながら地図に頼りすぎることなく判断するように。なお、地図上のランドマークの位置に誤りがあれば報告し、地図を修正することを副次的目標とする」という命令を下す。

 Bのシナリオでは、司令部は「司令部の優秀なスタッフが作製した地図に基づき、隊員個人の感や経験に頼ることなく、必ず司令部の作成したマニュアル通りに作戦を遂行せよ」と命ずるのである。支給される地図はAシナリオと同じく極めて不完全なものである。マニュアルには、地図の読み方、目視の仕方等の初歩的なものから、判断の仕方、行動規範等まで盛り込まれており、それに従えば素人でも目的地に着けるようになっている。但し地図が正確であればの話だが。

 両シナリオにおいて実行部隊に選ばれるのが同じように優秀であり、経験力量ともに優れている人物であったとしても、それでも作戦遂行の結果は目に見えている。Aのシナリオは首尾良く目標に到達し、しかも地図を修正するための情報が得られて、以後同様の作戦を遂行することを容易にしていくことができる。Bのシナリオは歪んだ地図をあたかも正確な地図であるかのようにして細かな手順までマニュアルで定めてあるため融通がきかず、結局は方向を見失って遭難したり目標とかけ離れた地点に迷い込んだりする事になる。

 当然シナリオに対する反論はあろう。みんながグリーンベレーやシールズみたいな戦士ではないし、みんながマニュアルに頼ってばかりで自分で判断を下せない人間とはかぎらない。しかし介護保険の認定審査で起こっている事態は限りなくBシナリオに近いのではないかと思う。

 しかも、隊員が道に迷ったとしても、隊員の経験や技能に基づく判断よりもマニュアルを優先し、地図の修正を認めようとしないから出口が見えてこない。当然このような作戦失敗の責任は司令部にあると誰でも思うが、当の司令部は、「作戦遂行のために必要な経験や技量を持った人を選ぶ様にとマニュアルに書いてありますから失敗の責任は人選をした方にあります」等と言い訳の用意はしてある様子。世間の非難が司令部に集中し始めてやっと地図の作り直しに着手したりする。

 命令する方は隊員の技量・力量を信じないから余計なことまでマニュアルで定めてがんじがらめにする。隊員の中にはマニュアル通りでないと不安にかられるものや、無理にやり歪んだ地図にあわせて報告書のつじつまをあわせようとしたりする者もいて、この国の病根の深さを思い知らされる。我が国固有の和を尊んで独断専行を嫌う(悪く言えば横並びが好きで一人歩きができない)国民性もあるからAシナリオは無理だとしても、間違った地図と役に立たないマニュアルを抱いて黙々と指示に従うような愚民にだけはなりたくないと私は思っている。

戻る