医療法人社団 正鵠会

四街道メンタルクリニック

平成9年9月1日より実施される健康保険法等の改正について

 はっきり言って今回の法改正いや改悪には反対である。決まってしまったものに反対というのも空しいが、今後このような無原則にして場当たり的な患者自己負担の変更は繰り返されてはならないと思う。

 健康保険は、加入者がお金を出し合って積み立て、いざというときにはお互いにそれで賄いあおうという制度である。いわゆる生命保険やその疾病特約と同じ発想である。しかし、生命保険があくまで自主的、任意に加入するものであるのに対し、健康保険は「国民皆保健」ということでいわば強制加入である。これは日本人の健康のレベルを維持し医療のレベルを保障する制度として極めて重要な役割を果たしてきている。そしてそれはその制度を維持しようという国民的な合意が前提で為されてきたはずである。その合意が前提とならなければ保険料率にしたがって全く税金と同様に保険料が徴収されるということはあり得ない。いわば国家レベルで保険会社をやっているようなものである。今回の法改正(悪)はあまりにも国民的合意をないがしろにしている。保険会社が勝手に「お金が足りないから保険料を上げます、サービスは削減します」と言ってきたのなら、そんな保険会社を選んだ自分も悪いともいえるが、健康保険に関する限り選択の自由はないのだから、少なくとも時間をかけて納得のいく説明や討論が為されるべきだし、消費税をアップするときと同様にそれを争点とした投票が為されてもおかしくないくらいの問題であろう。あまりにも拙速な改正(悪)である。平成9年4月に薬価や点数の見直しがあり、また、一般には知られていないが診療報酬請求書等の書式・用紙の変更があって、保険医療機関はそれに対応するため多くの労力と森林資源(紙)と金銭的負担を要した。今回はそのわずか半年後に行われ、保険医療機関はまた同様の負担を強いられることもつけ加えておきたい。

 今回の改正(悪)の無原則性は「薬剤費一部負担」と称する患者負担分の増額に最もよく現れている。その計算方法はかなり怪奇なものであるためここでは説明することを避けるが、今まで通り薬剤費をも含めた点数の総計に負担率をかけた自己負担分に、処方された薬剤数(薬剤の値段ではない)に応じて自己負担分が上乗せされるものであるため、1)場合によっては薬剤費全部を負担した上にさらに従来通りに薬剤費をも含めた点数の2割あるいは3割を支払わされるケースもあり得る、2)医師が処方箋の書き方をちょっと変更しただけで薬剤費一部負担の額がかなり変動する、3)高い薬を使っても安い薬を使っても薬剤費一部負担の金額には直接反映しない、等の問題点がある。そしてなんといってもこれまでの一定の率で自己負担する、あるいは上限を決めて自己負担する、という形が、複雑で根拠に乏しいものにとってかわられるということのもつ問題性である。医療機関の窓口で、患者さんになぜこの金額になるのかと問われても「厚生省や国会が決めたから」という以外にきちんとした説明のしようがない。厚生省がただ「自己負担分が適当に増えればいいや」という位の気持ちで決めたとしか思えない場当たり的な改正(悪)である。税金にしても各種規制にしても複雑にしておけば不満を押さえ込みやすいという日本の官僚体質が現れているのではないかとみるのは私の穿ちすぎであろうか。

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