医療法人社団 正鵠会

四街道メンタルクリニック

レセプト開示の動きを歓迎する

  最近、患者さんからの要請があれば診療報酬請求明細書、いわゆるレセプトを開示するという動きがある。私はこれはごく当然のことだと思うし今までそれがなされなかったことがむしろ不自然だと思う。私はカルテを患者さんにそのまま渡すことには多少抵抗があるが、それは、私が主たる診療科としている精神科・神経科のカルテには客観的情報や患者さんの訴え以外に、精神療法の概要を記述しなければならないためで、これには「解釈」や治療者としての恣意的なアプローチが含まれ、患者さんに直接知られることが治療上マイナスになる可能性があるからである。しかしながら私は患者さんに対して原則として「病名」「治療法」「薬の情報」「施行する検査の意味と目的」については嘘偽りなく伝えることにしており、それが多少とも治療上マイナスになることがあってもそれを伝えることで生まれる信頼関係の方が結局はプラスになると考えている。

 「レセプト」というのは医師があるいは医療機関が保険診療としてどのような治療・検査をしたのかを報酬を請求するための裏付けとして添えるものであり、患者さんにとっては、自分が受けた治療の値段について、そして窓口で支払った自己負担について再確認するだけのことであり、病名や治療法、検査について説明を受け納得していれば何も問題はない。受けてもいない検査や投薬が記されているとすればそれはすなわち医療機関の詐欺行為であり、あってはならないことである。ただし、医療機関や医師側と患者さんとの側で「施行した」「いや受けていない」と見解が分かれる場合がある。いわゆる診療技術料といわれるものである。われわれ神経科・精神科の医療で言えば「精神療法」などにかかわるものである。目に見えないものであり、診察は密室で行われ、第三者の介在はまずない状況、しかも治療はいつもうまくいくとは限らず医師と患者さんとの間での感情のもつれも起こりうる。その中で、「精神療法を行った」「精神療法と呼ぶに値しない」といった水掛け論が始まる可能性はある。ただし、強制入院・強制治療に該当しない限り医療機関を選ぶ自由は患者さんの側にある。治療やそのコストに納得してもらえない医療機関は自然に淘汰されていけばよい。

 保険審査機関や保険者はレセプトを見てそこに記された診療内容が妥当である場合には報酬の自己負担分を除いた額を医療機関に支払うことになっている。先頃、朝日新聞が「請求された医療費の内の2000億円が過剰であるとして減額された」と報じた。私はこの報道には異議がある。私のところで減額されたものはレセプト記載上の「不備」が原因で減額されたものばかりである。例えば「意識障害に似た症状」を訴える神経症の患者さんに鑑別診断上必要あるため脳波検査を施行したのだが、「意識障害の疑い」と病名記載をしなかったため減額された。病名を記載しなかった私の不備ではあるが断じて「過剰診療」「不正請求」ではない。むしろこのような減額が日常茶飯事であるためレセプト上の病名はどんどん増えざるを得ないのが現状である。朝日新聞は保険審査機関や保険者が減額したものは「過剰」「不正」といってはばからないようだが現実に患者さんと日頃向き合っている現場の医療機関側の感覚とはかなりのずれがあるのではないかと思う。もちろん不正請求している医療機関が無いというつもりはないが、「減額」すなわち「不正」「過剰」とする朝日新聞の報道はいたずらに医療機関への不信をあおっているように思える。保険者、審査機関が書類上の不備や疑義だけで判断するだけでなく、治療の受け手である患者さんが納得しているのかどうかという視点が患者さんへのレセプト開示で開かれてくるのであれば、私としては歓迎したい。

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