医療法人社団 正鵠会

四街道メンタルクリニック

脳代謝賦活剤の薬価削除について

 

 脳代謝賦活剤のうち数品目が薬価から削除されることになった。効果のない高価な薬が追放されるのは結構なことだと思うが、一般臨床医としては、この経緯について疑問を持たずにはいられない。

 まず、新聞報道がどれも判を押したようにある巧妙なすり替えによって構成されていることである。脳代謝賦活薬は、その殆どが「脳血管障害の後遺症による情緒障害など」に効用があるといわれていた薬である。それがいつのまにか「抗痴呆薬」などという今まで聞いたこともないような名称をかぶせられ、「抗痴呆薬として痴呆の患者さんに広く使用されてきた」と解説されている。これはおかしい。私は今までに痴呆を改善するなどという薬を見たことはないしそのような使用をしたこともない。また、審査機関も健康保険上痴呆の病名に対して使用を許している薬物はないのではないかと思う。それなのに何故かどの新聞も同じ様な論旨で、「効かない抗痴呆薬」といった扱い方をしている。

 しかも、脳代謝賦活剤が再審査されて、その結果が一般臨床医には情報が届かぬ段階で、いったい本当に効果が無いのかどうかきちんとした判断が下された段階でもないのに新聞でとりあげられ、大々的に「効かない抗痴呆薬」として喧伝されてしまったことは重大な問題だろうと思う。いったん報道されてしまえば後は「世論」を背景に薬価から削除するまで押し進めるのに苦労はしないだろう。実際そうなった。理屈は後からついてきた。「実際、薬理効果はないわけではないが現時点ではあえて薬価に収載するほどの効果ではないから」というのがその理屈である。要は、医療費抑制の嵐の中ではじめからこれらの高くて効果の判定の難しい薬は狙い撃ちされて消える運命だったのである。

 だが、やはり一番の問題は情報が操作されて、まず「効かない抗痴呆薬」のキャンペーンがあって「世論」がつくり出され、その地ならしの効いたところで薬価から削除するというこのやり方である。どうせどこかのできの良くない役人が御用記者相手に情報を意図的に漏らしたりしたのだろうが、こんなやり方が通例になって「医療費抑制」の旗のもと、次々と薬が槍玉にあがっては薬価から消えていくのではないかと思うのである。私の「下司のかんぐり」ではきっと次は漢方薬あたりではないかなと思えてならない昨今である。新聞も少しは独自の視点で掘り下げて報道して、情報操作の手段になり果てないように気をつけた方がいいのではないのか。

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